畠山畠山

皆様からお寄せいただいた、「20歳の成人祝いサプライズ体験談」をご紹介しています

「私が着てあげられんかった分、あんたが着てあげぇ」

成人式といえば振袖といわれますが、小さいころから全く振袖に興味が無い人間でした。

高校を卒業した頃、着物屋から振袖のカタログが届くようになり、19をすぎると周囲からも「どんなのにするの」だの「着付けはどこで」だのいろいろ聞かれるのがもう苦痛で苦痛で。

というのもあの派手な感じ、長い袖、背に背負う大きな帯、どれを取っても全く興味がなく、むしろ嫌悪感を抱いていました。

成人式に行くならあれを着ないといけないのか、と成人式前から暗澹たる気分になりました。

当日は結局スーツにしました。
しかし周囲から浮いていること浮いていること。
幸いというべきか、当時髪をとても短くしていたので男性に見間違われるケースが多く、少々微妙な気分になりつつもまあいいかと思っていました。
振袖の友人と一緒にいるとカップルにも見えたようです。
でも同じ女性どうしだとわかってしまうのですね。

気にしないようにしようとしていても、振袖の集団とすれ違うと振り返られ、2度見され、そしてひそひそ。
同性カップルとでも思われたのでしょうか。

友人は「短絡的すぎる!!」と怒り狂っていましたが、高校を出て間もない20歳の若者なんて、古今東西そんなものでしょう。

そんな感じで若干どんよりしつつ自宅に帰ってきた私を、何故か遠くに住んでいた祖母が待っていました。
こちらに来る予定があったなど聞いていません。
しかし目の前の祖母はニコニコしつつ「大人の仲間入りやねぇ、おめでと」。

この時点で驚くやら嬉しいやらだったのですが、祖母が「大人になったから、約束やったしね」と渡された包みを開けてびっくり仰天。

それは祖母が大事にしていた、墨色の結城紬の反物でした。
いわく嫁入りで持たされたもので、機会あって子供のころに一目見せてもらったときに心奪われたものです。

「これは大人のものやからな」といわれたのを、欲しいとしつこく食い下がったんでしたっけ。
もう10年以上も昔のことで私自身忘れかけていたのに、祖母はしっかり覚えていたのです。
虫食いも無く、きれいな反物。
「大人になったんやし、これはあんたのもんや。」

それまでのがっかり感など吹っ飛ぶくらい嬉しかったのを覚えています。

その後もったいないと思いつつ「私が着てあげられんかった分、あんたが着てあげぇ」という祖母の言葉に従って仕立てました。

そんな祖母が亡くなって早5年。
祖母が喜んでくれる気がして、法事はいつも、この紬の着物で出ています。

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